朝、デスクに座っても作業が進まない。通知音や周囲の物音が気になり、落ち着かない。
こうした状態を、音楽だけで解決できるとは限りません。
厚生労働省は、睡眠不足が日中の疲労や注意力・判断力の低下に関係すると説明しています。
音楽を取り入れる前に、睡眠や休養の不足も確認が必要です。
音楽を使った研究では、ストレスに関する指標や、本人が感じる睡眠の質の改善が報告されています。
一方、仕事や勉強の成績が一律に上がるわけではありません。
休憩、作業、就寝前では、効果を分けて考える必要があります。
本記事では、日常生活で自分で音楽を聴く方法を扱います。専門職が治療関係の中で行う音楽療法とは区別しています。
癒しの音楽とストレスの関係
厚生労働省の「こころもメンテしよう」では、音楽を聴くことや歌うことをセルフケアの方法として紹介しています。
そのときの気分に合う曲を選び、ほかの作業をしながらではなく、音楽を聴く時間を設ける方法です。
国内の学術誌『音楽知覚認知研究』に掲載された岩永誠・森数馬の解説論文(2017年)は、音楽聴取時の自律神経反応を整理しています。
刺激的な音楽では交感神経活動、鎮静的な音楽では副交感神経活動が高まる方向の反応が報告されています。
ただし、この論文は「穏やかな曲なら誰でも自律神経が整う」と保証するものではありません。
音楽を聴いて落ち着く感覚と、心拍数やホルモンなどの測定結果は分けて扱う必要があります。
集中したいときは、音楽がない環境も選択肢
国内の科研費研究「背景音提示下での学習成績を規定する要因の検討」の2018年度報告では、読解課題と系列再生課題で、歌詞の提示による成績への干渉が報告されています。
同じ実験では、器楽音による干渉は認められませんでした。
一方、髙橋麻衣子らの2016年の学会発表では、24人が小説を読んだ際、歌詞を朗読した音声の条件で、ほかの条件より主観的理解度や要約の質が低くなりました。
歌詞のある音楽と、歌詞の朗読は同じ結果ではありませんでした。
研究によって課題や音の条件が異なります。「歌詞は必ず邪魔になる」「歌詞がなければ集中力が上がる」と一律には判断できません。
作業用BGMを選ぶ際は、次のように使い分けます。
| 場面 | 取り入れ方 |
|---|---|
| 読書・文章作成・暗記 | 音楽なしの状態を基準にし、BGMで読み直しやミスが増えないか確認する |
| 音楽を流して作業したいとき | 歌詞のない曲を小さな音量で試す。気が散る場合は止める |
| 作業の合間の休憩 | 作業を止めて、好みの曲を聴く時間として使う |
これは日常で試すための使い分けです。特定のジャンルの効果を保証するものではありません。
Lo-fiやピアノ曲という名称だけでは、作業への適性は判断できません。
また、今回参照した研究からは、「癒しの音楽でアルファ波が増え、その結果として集中力が上がる」という説明を一般化できません。
睡眠では、改善が報告された内容を確認する
厚生労働省eJIMの「音楽と健康」は、不眠症の人を対象にした13研究、計1,007人のレビューを紹介しています。
音楽聴取による主観的な睡眠の質への有益性について、根拠の確実性は中程度とされています。
寝つくまでの時間や睡眠時間などへの有益性については、根拠の確実性が低いと説明されています。
「よく眠れたと感じること」と「実際の睡眠時間が長くなること」は区別が必要です。
この資料は、厚生労働省の事業サイトに掲載された海外研究の日本語解説です。
日本国内で実施した研究ではありません。
今回確認した資料だけでは、「穏やかな音楽がメラトニンの分泌を促すため眠れる」とは説明できません。睡眠の改善報告と、ホルモンによる仕組みの証明は別です。
厚生労働省の睡眠ガイドでは、睡眠時間と睡眠休養感の両方を重視しています。
音楽の利用とは別に、睡眠不足への対応が必要です。
自然音や「1/fゆらぎ」の表示だけで選ばない
今回確認した資料だけでは、1/fゆらぎを含む音源であれば、安心感や集中力が誰にでも高まると結論づけることはできません。
雨音や波音を選ぶ場合も、名称だけで効果を判断せず、実際の聴き心地を確認します。
自然音でも、気になる場合は流し続ける必要はありません。
場面別の音楽の取り入れ方
以下は日常で試すための例です。医学的な効果を保証する手順ではありません。
仕事や勉強の合間
通知を止め、作業から離れて音楽を聴く時間を設けます。曲は好みを基準に選び、音量は小さめに設定します。
作業中に流す場合は、「落ち着くか」だけでなく、作業時間やミスも確認します。音が気になるときは、音楽を止めた状態と比較します。
就寝前
歌詞のない穏やかな曲や、好みの自然音を候補にします。就寝前の準備例は次のとおりです。
- 再生前に音量を下げる
- 広告、通知、曲の切り替わりで大きな音が出ないか確認する
- 必要に応じて停止タイマーを設定する
- 音が気になる場合は再生を止める
音楽を一晩中流す必要があるとは、今回参照した研究からはいえません。
音楽と呼吸への注意を組み合わせる場合
厚生労働省は、セルフケアの一つとして腹式呼吸を紹介しています。
ただし、音楽と組み合わせることで効果が高まると、この資料から断定することはできません。
休憩の一例として、次の方法があります。
- 通知を止め、楽な姿勢で座る。
- 音楽を使う場合は、小さな音量にする。
- 無理に深く吸わず、自然な呼吸に注意を向ける。
- 苦しさや不快感があれば中止する。
音楽は必須ではありません。ここでは、効果が保証された治療法ではなく、休憩時の実践例として紹介しています。
音量と聴く時間にも注意が必要
厚生労働省eJIMは、大きすぎる音量で音楽を聴くと、騒音性難聴の原因になることがあると説明しています。
癒しを目的とした音楽でも、音量と使用時間には注意が必要です。小さな音量で使い、長時間の連続使用を避けます。
よくある質問
癒しの音楽は何分聴けばよいですか?
誰にでも共通する最適な時間は、今回確認した資料では定められていません。
「5〜15分で多くの人に効果がある」とする根拠は確認できませんでした。
歌詞のある曲は避けたほうがよいですか?
国内の研究報告では、読解や系列再生の課題で歌詞による干渉が報告されています。
ただし、課題や音の条件によって結果は異なります。
これは作業中の成績に関する結果であり、休憩中に好きな歌を聴くことを否定するものではありません。
YouTubeの音楽でも効果がありますか?
今回参照した研究だけでは、個々のYouTube動画の効果はわかりません。
再生回数や高評価の数から、睡眠や集中への効果を判断することもできません。
利用する場合は、広告や動画の切り替わりも含め、途中の音量変化を確認します。
毎日聴くなら曲を入れ替える必要がありますか?
「慣れによる効果の低下を防ぐため、定期的に曲を替える必要がある」という根拠は、今回確認した資料では見つかりませんでした。曲の変更よりも、聴いていて不快でないか、作業や睡眠を妨げていないかを確認します。
政府が公認した癒しの音楽はありますか?
今回参照した公的資料では、特定の曲やYouTube動画を政府が公認したという情報は確認できませんでした。公的機関の資料や学術論文を引用することと、個々の音源が政府に公認されていることは別です。
音楽の利用は、ストレス対策や睡眠環境を整えるための補助的な方法です。
効果には個人差があり、不眠症などの治療に代わるものではありません。
眠れない状態や日中の強い眠気が続く場合は、医療機関に相談してください。
参考情報
日本の公的機関の資料
厚生労働省eJIM「音楽と健康」 — 海外研究を紹介する日本語解説。国内研究ではない。ページ記載の英語版最終アクセス確認日は2022年11月。
心と集中力をやさしく整えてみてください。
厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(2024年2月) — 睡眠不足の影響、睡眠時間と睡眠休養感に関する資料。
厚生労働省「音楽を聞いたり、歌を歌う」 — 音楽を使ったセルフケアを紹介。
厚生労働省「腹式呼吸をくりかえす」 — 呼吸を使ったセルフケアを紹介。
国内の学術論文・研究報告
- 岩永誠・森数馬(2017年)「音楽と自律神経系活動の関係:音楽への反応と心臓血管系反応の測定法」 — 『音楽知覚認知研究』23巻1号、57–68頁。解説論文。J-STAGE公開日は2022年だが、論文の発行年は2017年。
- 髙橋麻衣子・片岡史絵・田中章浩(2016年)「小説の読解における背景音の影響の検討」 — 日本認知心理学会第14回大会の発表論文集。24人を対象とした研究の要旨。
- 髙橋麻衣子「背景音提示下での学習成績を規定する要因の検討」 — 科研費研究課題15J40206。本文では2018年度の研究実績報告を参照。学術誌の原著論文とは区別して扱う。
免責事項
本資料に記載されている情報は、一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的診断、治療、または専門的な医療アドバイスに代わるものではありません。
- 効果の個人差について: 音楽によるリラックス効果や生理的変化には個人差があり、すべての方に同様の効果を保証するものではありません。
- 専門医への相談: 心身の不調がある場合や、疾患の治療中の方は、必ず医師や専門医療機関にご相談ください。
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