感情の波が大きいのは、性格だけのせいじゃない
― 愛着形成と「パーツ」から読み解く、情動調整のしくみ ―
「なぜこんなに感情が揺れるんだろう」 「また同じパターンに陥ってしまった」
そんな経験は、ありませんか。
感情のコントロールが難しい。人間関係で消耗しやすい。
その背景には、情動調整の不安定さが関わっていることがあります。
この記事では、愛着形成とパーツという2つの視点から、そのしくみを解説します。
自分の反応のクセが見えてくると、少しずつ楽になるヒントが見つかるはずです。
📖 この記事でわかること
- 情動調整とは何か、どのように育つのか
- 愛着形成が感情の揺れに与える影響
- 「パーツ」という視点での自己理解
- 今日からできる、3つの向き合い方
1. 情動調整の不安定さは、性格だけの問題ではない
まず、いちばん大切なことから。
感情の波が大きいことは、性格だけで説明できるものではありません。
情動調整の不安定さには、生まれつきの気質に加えて、これまでの対人経験や心の内側の構造が関わっています。 なかでも、幼少期に積み重ねてきた愛着形成と、心の中のパーツの働きが注目されています。
そもそも「情動調整」とは
情動調整とは、感情の強さや表現をうまく整える働きのことです。
この力には、生まれつきの気質(反応の強さや切り替えのしやすさ)が関わることが知られています。 同時に、他者との関わりの中で育っていく側面も大きいと考えられています。
| 積み重なる経験 | 育ちやすいもの | |
|---|---|---|
| 安定した関係の中で | 「怖かったけど、大丈夫だった」「怒ったけど、受け止めてもらえた」 | 自分で感情を整える力 |
| 不安定な環境の中で | 感情の扱い方を学ぶ機会が少ない | 些細な刺激にも強く反応しやすい状態 |
つまり、感情の整え方には「学ばれる」部分があるということ。 学ぶ機会が少なかっただけ、という見方ができます。
2. 愛着形成が、情動に与える影響
愛着理論は、イギリスの精神科医ジョン・ボウルビィ(John Bowlby)が体系化した考え方です。
🏠 愛着とは「安心の土台」
愛着とは、特定の人との間に結ばれる情緒的な絆のこと。 危機を感じたときにその人に近づき、安心が戻るとまた外の世界へ向かう——この繰り返しが心の土台をつくります。
- 愛着が安定していると … 不安や怒りを感じても「きっと大丈夫」と回復しやすい
- 愛着が不安定だと … 警戒心が強まり、小さな出来事にも敏感に反応しやすい
「安全基地」と「安全な避難所」
ここで押さえておきたいのが、安全基地は「場所」や「感覚」ではなく、愛着の対象となる“人”を指すという点です。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 安全基地(secure base) | そこを拠点に、安心して外の世界へ出ていける存在 |
| 安全な避難所(safe haven) | 不安なとき、逃げ込んで慰めてもらえる存在 |
「何かあっても、あの人のところに戻れる」
この確かさがあると、感情が揺れても回復が早くなります。
幼少期にこの経験が少なかった場合、自己調整力の土台が育ちにくくなることがあります。
内的作業モデル(内的ワーキングモデル)とは
私たちは過去の経験をもとに、無意識のうちに「人間関係とはこういうもの」という予測の枠組みを
つくっています。 これを内的作業モデル(internal working model)といいます。
| モデルの方向性 | 起こりやすいこと |
|---|---|
| 「他者は信頼できる」 | 関係を築きやすくなる |
| 「いつ裏切られるかわからない」 | 感情が過敏に反応しやすくなる |
このモデルは、思考や行動だけでなく、注意の向け方や記憶のされ方にも影響すると考えられています。
愛着が不安定になりやすい背景
愛着が育ちにくくなる要因には、さまざまなものがあります。
● 養育環境の一貫性の欠如
関わり方にムラがあると、「次はどう反応されるんだろう」という不確実性が不安を強めます。
● ネグレクトや心理的ストレス
関わりが薄い環境や、緊張が続く環境では、常に警戒した状態が続きやすくなります。
● 家庭環境の変化
引越しや家族構成の変化なども、安心感の土台を揺るがすことがあります。
3. 「パーツ」という視点で、自分を理解する
パーツとは何か
心の中には、場面や状況に応じて異なる「役割」を持つ部分が存在している—— この見方を提唱しているのが、リチャード・シュワルツが開発した心理療法 IFS(内的家族システム/Internal Family Systems) です。IFSでは、この部分をパーツと呼びます。
不安を感じる部分。感情を抑える部分。相手に合わせようとする部分。
それぞれが、独自の視点や記憶を持って働いています。
IFSの基本的な考え方は、たとえその行動が裏目に出ていたとしても、すべてのパーツには肯定的な意図がある、というものです。
なお、心の部分が「分化」していくプロセスを扱う理論としては、ヴァン・デア・ハートらの構造的解離理論もあります。こちらは慢性的な心的外傷(トラウマ)による人格構造の変化を説明するもので、IFSとは前提の異なる別のモデルです。
主なパーツの働き
| パーツ | 本来の役割 | 過剰に働くと |
|---|---|---|
| 不安・恐怖を担うパーツ | 危険を察知して自分を守る | 常に警戒状態が続く |
| 感情を抑制するパーツ | 強い感情から自分を守る | 自分の感情がわからなくなる |
| 対人適応を優先するパーツ | 関係を壊さないよう気を配る | 自分の感情が後回しになる |
どのパーツも、もともとは自分を守るために働いています。
「悪いクセ」ではなく、「守り方が少し過剰になっている」と捉えてみてください。
「さっきと全然違う自分が出てきた」という体験も、この視点から眺めると理解しやすくなることがあります。
4. できることから、向き合ってみる
感情の不安定さは、「直す」ものではなく「理解する」ところから始まります。
① パターンを観察する
感情や行動が大きく動いた場面を、メモしてみましょう。
例:いつ/どこで/誰と/何が起きて/どう感じたか
記録することで、自分の反応のクセが少しずつ見えてきます。
② 感情を言葉にしてみる
「なんか嫌だった」を、もう少し具体的にしてみます。
「なんか嫌だった」 → 「寂しかった」「怖かった」「悔しかった」
言葉にするだけで、感情が落ち着きやすくなります。
③ 安心できる関係を大切にする
少数でもいいので、安心して話せる人がいることが情動調整の支えになります。
完璧な関係でなくて構いません。 「この人といると、少し楽」という感覚を大切にしてください。
まとめ:自分を責めるより、しくみを理解することから
- 感情の波が大きいのは、意志の弱さだけの問題ではありません
- 生まれつきの気質と、これまでの経験の両方が、今の反応に影響しています
- その視点を持つだけで、自分への見方が少し変わることがあります
無理に変えようとしなくて大丈夫です。 まずは「そういうしくみがあるんだな」と受け止めるところから、始めてみてください。
よくある質問
Q. 情動調整が不安定なのは、性格のせいですか?
A. 性格だけで説明されるものではありません。
生まれつきの気質に加えて、過去の環境や経験が影響していることが多くあります。
Q. 大人になってから、愛着は変わりますか?
A. 変化する可能性はあるとされています。心理学では、安全な関係や自己理解を通じて安定型に近づいていくことを「獲得された安定型(earned secure attachment)」と呼びます。ただし、一朝一夕に変わるものではなく、個人差もあります。
Q. 自分でできることはありますか?
A. 感情の記録や言語化など、日常の中でできることがあります。
無理のない範囲で、コツコツ続けることが大切です。
免責事項
本記事は、情動調整や愛着形成に関する一般的な情報提供を目的としています。
記事内の内容は、特定の診断・治療・カウンセリングに代わるものではありません。
また、掲載情報の正確性・完全性を保証するものではなく、内容は予告なく変更される場合があります。
本記事を参考にした結果生じたいかなる損害についても、当ブログは責任を負いかねます。
心身の不調や日常生活への支障を感じている場合は、医師・心理士・カウンセラーなど専門家へのご相談をおすすめします。
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参考文献
愛着形成の問題を抱える生徒への支援
https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/mentalhealth/jyonan/eeagrl0000000iap-att/16jyounan%282%29.pdf
愛着とパーソナリティ障害―愛着理論はパーソナリティの適応化にどのように貢献できるか?―
https://journal.jspn.or.jp/Disp?mag=0&number=9&start=728&style=ofull&vol=121&year=2019

